2016年 05月 11日
クラフトビールの時代? |
今日づけのFinancial Timesでバドワイザーが5月23日から11月の大統領選までの期間に"Budweiser"のブランドで知られるビール名を"America"というパッケージで売り出すことになったと報じられている。バドワイザーといえば、AB Inbevという世界最大の醸造会社のブランドの一つである。このインベブは昨年、SABミラーというインベブに次ぐ世界最大の醸造会社の一つを買収するという合意を締結した。金額は、1060億ドル、つまり、少なくとも10兆円を超えるこの業界では過去最大の買収案件を手がけた会社でもある。またこのSABミラーの買収によって、各国の独占禁止法に当たるとされているため、SABミラーの保有する株をある程度売却するとみられ、その売却される株式を、グローバルプレーヤーとなろうとしているアサヒビールなどが買収に動いている。最近、アサヒビールが4000億円でSABミラーから欧州の4事業を買収することで合意したこともあり、世界のビールのM&A市場は活況を示そうとしている。
この巨額買収が続く理由として考えられるのは、世界のビール市場の縮小フェーズということがあげられる。ウォールストリートジャーナルの昨年10月14日のニュースによると、2014年から2015年にかけて世界のビール市場が0.1%シュリンクするとみられており、また、それが業界再編を促しているとされる。これは一般に市場が成熟からダウンサイジングするフェーズに入ると、マーケットシェアの確保のために業界再編が促される傾向にあるためだ。事実、世界のビール市場は上位4社で50%以上のシェアを握るなど、寡占された状況にある。
さて、その寡占化された市場の中でマーケットリーダであるはずのインベブがどうしてアメリカのバドワイザーのブランド名を"America"に変えるのか?それは大きな理由がある。近年、アメリカにおいて、大会社が出すビールが消費者の移り変わる嗜好についていけなくなっており、その分がクラフトビールにシェアを奪われており、現在、アメリカにおけるクラフトビールは21%のシェアを占めているとのこと。一方で、バドワイザーはアメリカ市場での人気を急速に落としており、このファーストクオーターにおいて、23%のベーシスポイント数字を落としているとの結果が出ている (Financial Times, 11.05.2016)。つまり、アメリカ市場でのシェア取り返すために何らかの”変化”をもたらさなければならないのだが、急に味を変えてしまえば、バドワイザーそのもののブランド価値を落としてしまう、もしくは、印象が変わってしまい、マーケットのポジショニングをそもそも見直すなどの手間がかかってしまうので、消費者心理を利用して、愛国心の強いアメリカ人に、”America”を訴えることにより、シェアを奪い返そうという魂胆だ。しかし、これが本当に味の好みが変わってしまったアメリカ人を満足せることができるのかは正直なところ予測不可能だ。ちなみに、皮肉なことに、このバドワイザーを運営する会社はベルギーに本社がある。その会社が、"America is in your hands"で売り出そうとしているのだから、なんとも言えない気持ちになる。ただ、CEOは常に株主の成長に対する期待を裏切るわけにはいかないので、これも一つの戦略として考えるべきだろう。
クラフトビールの話で言えば、これは全世界の先進国に広がっている傾向にあると考えられる。先進国では消費者の嗜好の多様化から、コモディティ化した皆の楽しむブランドから、自分にあったものを求める傾向にある。自分が本当に美味しいと思うもの、それを追い求めたい。そんな気持ちが消費者の心理をくすぐるクラフトビールに注目が集まっているのではないか、そんな風に考えさせられる。
最近、ロンドンでもクラフトビールの店が多く見られるようになってきたし、僕も時々行くことがある。ロンドンは世界の中でも例外の都市だが、一方で多様化された社会でもあるため、これが世界のビール市場を象徴しているのではないか、そんな風に思わなくもない。
by lse_keio_sfc
| 2016-05-11 20:10
| 食事
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