2016年 05月 09日
移民政策 |
”Economics of Migration”という面白いレクチャーがあった。公共政策の分野はもちろん日本でも先進的な政策は多々あるのだが、こちらでも別の面で多々ある。公共政策というのは国や地域柄が出やすいものであるともいえよう。
日本の場合、ゼロ金利政策と量的緩和政策という前例のない金融政策をやったり、その他様々な世界でも例外と言える政策を打ち出し、また、その政策が前例として取り上げられ、世界の公共政策で使われているという例も存在する。
さて、イギリスで最も印象深いのは、”ビッグバン”、”ユーロ離脱”、”ブレグジッド”、そして、今の移民政策あたりだろうか?他にもあるかもしれないが、とりあえず、話を前に進めたい。
ヨーロッパでよく取り上げられるのは、移民政策だ。移民政策は日本人だけがよく取り上げられがちだが、多かれ少なかれ、移民が入ってくるような裕福な国の国民は大抵の場合、移民が嫌である。それは仕方のないことで、どうしても異質なものが入ってくることは国民感情として受け入れがたいものがある。しかしながら、こちらでは移民が受け入れられている。今回は労働経済の観点からである。
それはどうしてなのかというと、雇用の増加につながるものであるということがあげられる。大抵の先進国では、職業でいう下の階級(EGP/NS-SECベース)の仕事は、自国民はやりたくないと思っている人も少なくない。そのため、おそらく海外ドラマや映画などを見ればわかると思うが、大体は移民が担当していることが多い。要は3Kのような仕事は大抵の場合、自国民はやらないということだ。しかし、これを移民がやる理由は割と簡単な話で、移民する個人というのは、大体、自国と英国を比較して、同じ仕事をしても、明らかに英国の方が相対的に給与がもらえるようになるので、多くの人間は英国に移住して、良い生活をしたいと考えているようだ。つまり、受け入れ側のイギリス(需要サイド)と受け入れられる側(供給サイド)の多くの場合、EUの国民(ロースキルワーカーは東欧から来る)の思惑が一致していることから、これまで移民が増え続けたとされている。
ただこれらのポジティブ・イフェクトだけでなく、ネガティブイフェクトももちろんある。それは、国民感情だ。まず最初に不満が出るのは、労働者階級、いわゆる、ロースキルワーカーなのだが、それは当たり前で、自分の国にもかかわらず、移民のせいで自分たちが働けなくなる可能性があるからだ。しかも、意思疎通ができないような移民に仕事を奪われてしまうことから、気分は良くない。しかし、マクロ的に見ると、労働市場というのは柔軟性があり、結局のところイギリス国民の労働市場を圧迫するような事態にはなってないとのこと。また、将来的に産業革命が起こったときのように、ロボットが導入されれば結局のところある意味労働市場が食われてしまうため、移民を受け入れようが、ロボットを導入しようがある産業はイギリス人が働けないという事態になる。だから、移民自体を感情だけで排除してしまうのはどうなのか?という議論だった。
このことから、経済効果に関しては、ネガティブイフェクトよりもポジティブイフェクトの方が大きいので、移民政策が実行されているが、もちろん、国民としては納得がいかない。まず、労働者階級の人間は、自分の仕事が食われていると感じるので、それに対して負の感情が強い。次にレジデントの問題で、いきなり周囲に異国民が入ってくれば、どうしても違和感を感じざるをえない。いきなり環境が変わるその状況に戸惑いを隠せないという話だ。また、三つ目は、住宅の問題だ。ロンドンでは住宅の供給に制限があり、住宅価格が高騰し続けている。イギリスではフラットを借りる場合、週単位で払うのだが、いきなり週£10とか上がったりする。年間でいうと£600と、約10万円上がることになるので、住宅のインフレが考えられないレベルで進行しているように思う。また、ブレグジットの問題が終息に向かい、そして、イギリスがEUに残ることになれば、ポンドの価値はまた上がるだろう。ポンドの円やドルに対する相対的強弱はイギリス人にはあまり関係ない話だが、しかし、年間でいきなり10万円の住宅費用が増加するというのがどれだけインパクトがあるか分かるだろう。そのことから、イギリス人の負の感情が増している。
また、将来的に移民が増え続ければ、イギリスのロースキル・レイバーに対する需給バランスが崩れ、労働者の供給過剰という状況につながりかねないため、これ以上の移民は正直受け入れがたいというような状況に行き着きつつあるようだ。
つまり、移民政策というのは、適度な範囲で行うことが望ましく、そして、過度に受け入れすぎることは、国の環境的も悪くなってくるのだという話をしていたので、日本も公共政策の際にはこれを参考にするのがいいのかもしれない。日本はロースキル・レイバラーに対する需要超過の状態にある。移民を受け入れるか、女性や高齢者をレイバーフォースとして社会進出の手助けをしていくということが必要だろう。どうしても、”文化”というものがこの受け入れに対してネガティブな印象があり、実現可能性が高いとは言い難いのだが。
by lse_keio_sfc
| 2016-05-09 07:20
| 修士
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