2016年 04月 21日
フランス人エリート |
LSEで少なからずフランス人と知り合う機会が多かったにもかかわらず、それほどフランス人について言及することがなかったため、今回はフランス人にフォーカスしたいと思う。
ちなみに、LSEに在籍する日本人の数がとある日本人向けのメールによってわかってしまった。学部生、院生(修士・博士含む)全員で70人近くみたいだ。学部生10人ほど、院生が60人ほどで、マジョリティは修士という感じかなと。
LSEに来ているフランス人の大半はパリ政治学院(Science Po)を卒業してくる人間である。パリ政治学院といえば、その名の通り、フランスの政治エリート養成機関である。この学校では、学部が3年、修士が2年、そして、博士が3年となっている。ただ、フランスでのエリートコースと考えられているのは、博士課程の段階で国立行政学院(ENA)に進学することがその道を極めるという形になっている。
フランスといえば、日本人のイメージでいうと、オシャレという単純なイメージがあるかもしれないが、僕はそうは思わない。個人的に何か好きになれない国である。というのも、パリに旅行に行ったとき、イギリスをダウングレードしたかのような交通機関、人というイメージで、何となく格落ち感の否めない環境であったためである。確かに食事が美味しかったり、建物も綺麗だったりするのだが、こうしたファンクショナルな面で僕は耐えられないと思ってしまった。特に人に対する悪印象は僕だけではなく、皆に共通することである。特にパリに行ったときは、多くの人が二度と行くわけないだろ、的な感じで思ってしまうような環境であった。いわゆる、パリ症候群ってやつですかね。
さて、そういった印象のフランスであるわけだが、LSEに来ているフランス人は皆”いいやつ”である。フランス人というと、自己主張が強く、完全な個人主義でプライドが高い、という印象ではあるが、僕の会ってきたフランス人は印象とは真逆の奴らで、人当たりもいいし、全然嫌味がない。もちろん、フランスに誇りを持っているということはなきにしもあらずだが、それでもそれを表現してくることもない。日本に対しても理解のある人が多かった気がする。彼らの多くは富裕層出身であるし、フランス革命以降に確立された近代ブルジョワ階級の最上位に位置している人間たちであるような気がしないでもない。
面白いことがある。フランス人には2種類あり、大多数のグランゼ・コールというエリート養成機関出身の人間と、ごく少数の普通のパリ大学出身がいる。この二つのバックグラウンドはフランスにおいては違いすぎるくらい違うと考えられており、要は、エリートとエリート以外に分けられているだけでなく、彼らは交わることがない。これは日本と近似しており、日本では同じようなレベルの大学出身者で固まる傾向があるが、フランス人はそれがより強化されたようなイメージだ。これは見ていて致し方ない部分もある。一定数の国の出身者がいる場合、どうしても同じようなバックグラウンドに終始してしまうことは致し方ないことである。どちらも好きとか嫌いではなく、価値観が合うか合わないかの差であるためである。
また、パリ政治学院からくる人間の専攻は当然だが、政治、経済、社会であるように思う。政治経済というのは当たり前すぎて、言及する必要はないと思うが、日本だと専攻の少ない社会学が、エリートの学ぶ王道の学問として捉えられている。日本と真逆であるフランスであるからか、また、社会学が”資産階級の学問”として捉えられており、また、フランスでは社会学が進展していることも見逃せない。土壌としても、イギリスやフランスというのは社会学が発展しやすい環境にあるとも言える。これは、階級格差が激しいイギリスとフランスにあって、社会学を理解すること、発展させることが国の発展につながるのではないかと思う。例えば、社会階層をどのようにフレキシブルにするか、という議論があったとして、その議論を発展させようと思うと、社会学が不可欠になってくる。これらエリートの学ぶ学問がそのままLSEやオックスブリッジの学問につながっていることや、フランスとイギリスの親和性、そして、フランス人のイギリスでの労働意欲などが相まって、イギリスで勉強するインセンティブになっている。
実際、フランスのエリートがイギリスで活躍することは珍しくない。よく見るのは、修士留学からのインベストメントバンカーになる例だ。インベストメントバンカーというのは世界中のエリートがなりたい仕事なのだなと思わさせられるくらい、インベストメントバンカーになりたい人間が多い。特にLSEは。日本だとコンサルがかなり人気があるが、基本的にこちらでは、明らかに給料がコンサルの二倍以上もらえる投資銀行の人気が圧倒的だし、アメリカでもゴールドマン・サックス出身者が政府主要機関の中枢を占めていることから”ガバメント・サックス”と揶揄されるように、米英中に限らず、ゴールドマンはエリート中のエリートだ。とはいえ、そんな簡単にこうした垂涎ものの憧れの職に就ける訳でもなく、多くの人間は国に帰ったり、コンサルティング・ファームの職を探したりする。他には、アカデミアの世界とか。
フランス人でアカデミアに強い人間は少なくない。LSEで有名な教授といえば、トマ・ピケティだ。彼を知らない人はいないと思うが、「21世紀の資本(Capital in the twenty-first century)」で一躍有名となり、出身校のLSEの教授として招かれた。また、彼は今世界で最も影響力のある経済学者とも言われている。もし、彼の指導を受けたいのであれば、LSEに来ると良いと思う。また、経済学は他に、ノーベル経済学賞をとったジャン・ティロールとモーリス・アレや社会学で不可欠なBourdieuや、ハーバード大学教授のMichel Lamontなどもいるし、政治学では、あまり多くはない印象だが、モーリス・デュベルジェもいる。
フランスも日本同様に学問の質の高さの割に世界ランキングで評価が低いように思うが、一方で、有名な人間を輩出し続けている。また、日本との大きな違いは、社会科学系への強さである。ヨーロッパ人への印象や地理的なアドバンテージのイメージとは裏腹に、英語が弱い。それにもかかわらず、金融街シティでの活躍やアカデミアでのレピュテーションを見ていると、フランス人の活躍が見て取れる。もちろん、日本はノーベル賞受賞者が多数おり、優秀な人が多いのは確かであるが、社会科学系は全くもって弱い。同じように言語の壁があるにもかかわらず、フランスの社会科学系への進出を見ると、日本もオープンな姿勢で国際社会へ目を向ければ、理系分野以外にも道が開けるのではないか。日本のノーベル経済学賞受賞者もまだ出ていないが、これは時間の問題かもしれない。しかし、その他社会科学系や人文学系で評価を得るのはまだまだ先かもしれない。まだまだ日本は改善の余地が沢山ある。フランスの社会科学系への進出度を見ると、そんな風に思ってしまった。
by lse_keio_sfc
| 2016-04-21 18:24
| LSE
|
Comments(1)
Commented
by
通りすがり
at 2018-09-08 17:43
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>フランス人には2種類あり、大多数のグランゼ・コールというエリート養成機関出身の人間と、
>ごく少数の普通のパリ大学出身がいる。この二つのバックグラウンドはフランスに
>おいては違いすぎるくらい違うと考えられており、
>要は、エリートとエリート以外に分けられているだけでなく、彼らは交わることがない。
>これは日本と近似しており、日本では同じようなレベルの大学出身者で固まる傾向がある
(a)私がネット上で薄っすら見聞きする限り、グランゼコールは日本の帝大などとは違い、
(少なくとも数学者を例に見れば)優れた研究者が教授としてグランゼコールに集中して
在籍している訳でなく、むしろ優れた数学者はグランゼコールではなく普通の大学の方に
教授として在籍している事の方が多いように思えます。
因みに教授職に就く人でグランゼコール出身者は全体の3割程度なのだそうです。
またグランゼコール出身者でも博士は普通の大学の方で取得しているケースも多いらしいです。
(b)学生が卒業生として企業などの就職面で優遇される傾向にある点と、
学部入試が科挙的である点については、確かにグランゼコールと日本の帝大とは
似ているようですが、
学問的な側面から見た時、(a)を見るにフランスの普通の大学がグランゼコールの
あたかも下部組織であるような感じにはないように思えますし、
科挙的な技術に長けた人だけしか優れた研究者の指導を受けられない
感じにもないように思えます。
(c)あと話が少し逸れますがエリートと一口に言っても例えばフランスの官僚は日本に比べ
給与が高い訳ではないらしく、公務員平均給与を国民平均所得で割った値は
フランスはほぼ1.0であるのに対し日本は2倍以上らしいですから、
階級の上下の関係というより奉仕者という役割の一つの関係という風にも思えます。
以上は私がネット上でしか知らない印象ですが
この点について実際にフランスと交流を持つ方に
今一度どう思われるか確認やコメントを頂けたら幸いです
>ごく少数の普通のパリ大学出身がいる。この二つのバックグラウンドはフランスに
>おいては違いすぎるくらい違うと考えられており、
>要は、エリートとエリート以外に分けられているだけでなく、彼らは交わることがない。
>これは日本と近似しており、日本では同じようなレベルの大学出身者で固まる傾向がある
(a)私がネット上で薄っすら見聞きする限り、グランゼコールは日本の帝大などとは違い、
(少なくとも数学者を例に見れば)優れた研究者が教授としてグランゼコールに集中して
在籍している訳でなく、むしろ優れた数学者はグランゼコールではなく普通の大学の方に
教授として在籍している事の方が多いように思えます。
因みに教授職に就く人でグランゼコール出身者は全体の3割程度なのだそうです。
またグランゼコール出身者でも博士は普通の大学の方で取得しているケースも多いらしいです。
(b)学生が卒業生として企業などの就職面で優遇される傾向にある点と、
学部入試が科挙的である点については、確かにグランゼコールと日本の帝大とは
似ているようですが、
学問的な側面から見た時、(a)を見るにフランスの普通の大学がグランゼコールの
あたかも下部組織であるような感じにはないように思えますし、
科挙的な技術に長けた人だけしか優れた研究者の指導を受けられない
感じにもないように思えます。
(c)あと話が少し逸れますがエリートと一口に言っても例えばフランスの官僚は日本に比べ
給与が高い訳ではないらしく、公務員平均給与を国民平均所得で割った値は
フランスはほぼ1.0であるのに対し日本は2倍以上らしいですから、
階級の上下の関係というより奉仕者という役割の一つの関係という風にも思えます。
以上は私がネット上でしか知らない印象ですが
この点について実際にフランスと交流を持つ方に
今一度どう思われるか確認やコメントを頂けたら幸いです
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