2017年 01月 15日
[番外編]プライベート・エクイティのための学位選択 |
久し振りに更新となりました。文体等々以前と異なりますが、御容赦下さい。
少し以前の話ですが、私自身、アジア諸国を周遊する機会があり、5星ホテル等で食事をしていると、中国人とイギリス・アメリカ人が交渉しているのが聞こえてきており、非常に勉強になった覚えがあります。イギリス人やアメリカ人が投資先、投資家、レギュレータとの投資関連の話をしており、「投資先のROEをどのように高めて行くか」ということと同時に「いかに自分たちが儲けるか」「その投資がいかに儲かるか」ということを強調していたように思います。欧米のように交渉がフラットではない中国を始めとしたアジア諸国では、相手の求めるものをいかに引き出すことができるのかが重要になってくると感じている次第です。また、中国の5星ホテルは上層階に政府関係者用のフロアがあり、そうしたところでも交渉が行われているかもしれません。
最近バイサイドに行きたい方と留学に行こうとしている方、また、行った後の方の将来のキャリアについて聞く機会が多いので、その中でのフィードバックも兼ねて、幅広い方の意思決定に寄与できればと考えています。今回はバイサイドフォーカスにて記述しておきたいと思います。また、そのキャリアに向けた学位選択と言ったところにフォーカスする予定です。
基本的にバイサイドというのは、広義の意味でのPE、ヘッジファンド(HF)、アセマネ等々ありますが、ここでは狭義の意味でのPEにフォーカスおきたいと思います。広義の意味のPEというのは、ベンチャーキャピタル(VC)からグロース、バイアウト、企業再生とありますが、ここではバイアウトフォーカスにしたいと考えています。その意味で狭義と致しました。ちなみに、一般の意味での狭義のPEはVC以外となります。
バイアウト市場
バイアウトファンドといえば、日本ではユニゾンキャピタル、アドバンテッジの日系がパイオニアかつ実績があるかと思いますが(アドバンテッジは最近はどうなんでしょう)、最近では、外資系も台頭しているように思います。カーライルは以前からだと思いますが、KKR、ベインキャピタル、MBKあたりはよく見るので、そこらへんはかなり活発な印象を受けています。また、カーライルは日本でのミッドキャップにフォーカス、そして人員等を増加させた旨のニュースも流れていますので、PE業界の活発度合いを感じる次第です。日系ですと、インテグラルの案件はすごいですね。佐山さんの力でしょうか。
APAC exJapan と日本の比較
とはいえ、日本のPEファンド市場はまだまだ小さく、アジアパシフィックで比較すると、中国はおろか、韓国よりも小さく、東南アジア諸国よりも小さいサイズです。ベイン・アンド・カンパニーのAsia-Pacific Private Equity Report 2016によると、投資金額は言うに及ばず、GDP2位の中国とGDP3位の日本を比較すると26.5xの差です。また、ディールフローに着目しても、明らかに少ないのがわかります。中国と比較すると、およそ15xほどの違いがあることがわかります。
動画:中国の投資の現状(非常にクオリティが高くて面白いです)
これを見ると、中国の投資ブームという捉え方ができるかもしれませんが、私の印象としては、マクロ的な面で見ると、資金の流動性が気になります。中国国家統計局の2016年度版によりますと、都市部の平均賃金が約6万元(約100万円)となっています。また、現地の感覚からしますと、大学卒業したての都市部で働くホワイトカラー従業員の月収は2500元から3000元(4万から5万円)ほどです。固定費や変動費を考慮しますと、どう考えてもそのようなお金があるとは思えませんし、雇われる側である以上はマネジメントにでもならない限り、給料が急激に上がることもありません。そのような中でどこからお金が湧き出ているのかと感じるほどです。とはいえ、その要因はいくつかありますが、ここでは言及を避け、余力があれば中国について別個言及させて頂きたいと思います。一方、ミクロというか、自分がそこで働くという視点で見ると、中国の内部で日本人が活躍しようと思えば、こうした中国人しかわからないようなコンテクストの中でやって行くのは難しいと感じる次第です。日本も外国人にとって攻略のしにくい環境だと言われてきましたが、中国も同様であるように感じます。
とはいえ、日本人ですと、日本以外のアジアパシフィックのPEで働きたいと思う人も少なくないと思います。しかし、残念ながらそれは不可能に近いですし、ある意味アメリカやヨーロッパで入社するよりも難しいかもしれません。というのも、PEそのもののビジネスがそれぞれの国に根ざしており、シンガポール以外の国に関しては、言語のみならず、商慣習、人脈、その他文化的要因が重要になります。日本人がいきなり行ったところでできることは少ないかもしれませんし、何より現地のPEの給料が少なく、それだけで就労意欲が失われてしまうことも否めません。現地の外資系に行く手もあるかもしれませんが、日本同様ディールフローが少なく、CVが充実しない可能性があります。長期的キャリアを考えますと、給料以上にいかにディールに関われるかがキャリアに重要になるといえるかもしれません。
少し以前の話ですが、私自身、アジア諸国を周遊する機会があり、5星ホテル等で食事をしていると、中国人とイギリス・アメリカ人が交渉しているのが聞こえてきており、非常に勉強になった覚えがあります。イギリス人やアメリカ人が投資先、投資家、レギュレータとの投資関連の話をしており、「投資先のROEをどのように高めて行くか」ということと同時に「いかに自分たちが儲けるか」「その投資がいかに儲かるか」ということを強調していたように思います。欧米のように交渉がフラットではない中国を始めとしたアジア諸国では、相手の求めるものをいかに引き出すことができるのかが重要になってくると感じている次第です。また、中国の5星ホテルは上層階に政府関係者用のフロアがあり、そうしたところでも交渉が行われているかもしれません。
日本のPE市場とその将来
では、日本の将来が暗いかと聞かれれば、必ずしもそうではなく、市場関係者はむしろ好感度合いを増しているように感じます。その理由としては、アベノミクスによって資金の流動性が増しているだけでなく、マイナス金利状況下に置かれることによって、よりリターンの得られる投資へと機関投資家が興味を持っていることがもう一つの要素と言えるかもしれません。しかしながら、資金の流動性が増した状態においても、日本の商慣行が変わらない限り、”運用先がない”ということも起こってきますし、実際に銀行側が”貸したくても貸せない”という状況下に置かれているようにも思います。PEファンドに目を向けると、以前も同じような状況が起こっており、”良い投資先がない”ということは度々言われてきました。良い投資先がない理由は日本の独特の商慣行にあります。”ハゲタカファンド”という言葉が先走ってしまい、PEの効果についてはあまり語られてこなかったため、「暴利を貪る悪い奴ら」という印象があったからかもしれません。一方で、良い投資先があると、ビットレースになってしまい、バリュエーションが上がり、ROEが低下してしまうことにより、リターンが減少してしまうことが起こっていました。ビットレースに関してはこれからも継続すると予想はされますが、投資先に変化が出てきているため、見通しは明るいように思います。
なぜPE市場が明るいか
明るい理由は2点あります。一つは、PEのファンクションに着目する企業が起こってきたこと。中小企業やベンチャー企業ですと、私の学部生時代のインターン経験でも感じたことですが、人材不足ということが挙げられます。日本では、世界的に突出した技術やノウハウがあるにも関わらず、マネジメント層の人材が薄く、継承者問題や、ファイナンス及びマネジメントの問題が頻発しています。こうした状況の打開に、資金も出してくれて、マネジメントまでノウハウを持つPEに協力を求めようという流れが日本市場に見られるように思います(上記の表にはまだまだマイナスとされていますが笑)。もう一つは、ROE経営を意識する経営者が増加してきたことがあります。日本は歴史的にメインバンクが資金調達や経営の面倒を見るというようなことが行われてきたためか、株式に関する規制や持ち株の重視かはわかりませんが、株主に対する寄与度が低かったように思います。しかしながら、リーマンショック以降のグローバル化の進展や国内市場への見切りから、世界に目を向けるようになり、グローバルスタンダードの経営が求められるようになってきたことから、株主への考え方も変わってきているように思います。そのことから、売上至上主義やEBITに着目するだけでなく、ROEを向上させることにより、いかにして株主に寄与するか、という考えを持ち始めているようにも感じています。そのため、日本のPE市場は明るくなってくるかなと思っています。
学位選択
上記ではAPACに関する情報を提供してきましたが、ここではロンドン・ドバイ及びAPACにフォーカスしたものにさせて頂きます。日本でバイサイドに行くとなると、また、大学卒業以降の進路となると猫も杓子もMBAという考えになる方も多いかもしれませんが、近年ではその状況は変わってきています。金融関連のキャリアですと、efinancial careerというサイトがかなり参考になるかと思います。さて、PEに行くとなると、どんな学位がいいのかが気になるところですが、MBAは特に必須ということではありません。むしろ、MScが今後はよりメインになってくるように感じています。日本ではミッドキャリアといえばMBAみたいな雰囲気がありますが、MBAは必要かもしれませんが、学部しか出ていない人間がジェネラルに学ぶMBAに行ったところで、何のベネフィットがあるのだろう?という印象があります。例えば、エンジニアリング関連の学位でPhDを持っていて、MBAとなるとシナジーを生むかもしれませんし、弁護士がMBAとJDを取るという選択肢であれば納得がいきますが、今の時代に学部+MBAの場合、何の特色もない人間に見えてしまうように思います。
これからは専門家の時代で、その専門をいかにジェネラルなものにするか、という点でMBAは有効だと思いますが、コンテンツを持っていない状態でMBAに行くのはどうなのだろうか、と思ってしまいます。学部生なんて勉強したかどうかという話ではありませんので。といった前置きはありますが、日本やその他APACではまだまだMBAだけでもやっていけるように思います。それはそもそも修士レベルの学位を持った人がいないだけでなく、教育を受けているだけで差別化できるからです。MScとはいえ、ファイナンスメジャーであるという前提ではあります。MFinやMiFなどありますが、マスターレベルでのファイナンスメジャーであれば、PEやバンキングに入って専門性を高めるという選択肢がありますし、会社側もそれを望んでいるように思います。それに関してはMBAも同様かもしれません。正直な話、ヨーロッパであれば、両方1年のプログラムなので、MFinとMBAの両方を取る方がいいかもしれません。その方がPEに入った後に苦労が少ないように思います。もしくは、オックスフォードの1+1みたいなプログラムを取り、その後PhDに行くのもありかもしれません。ここではそれてしまうため、最小限の言及にとどめますが、VCに行きたいなどあれば、コンピューターサイエンスPhDは後々役に立ちますし、エンジニアリングPhDはPEやVCで役に立つように思います。もちろん、MfinやMBAあっての話ですが。
選択すべき学校
正直ロンドンやドバイを目指すのであれば、オックスブリッジかLSEに行くべきと言いたいところですが、LBSやINSEAD、HECなどの選択肢もあります。前者も後者もMFinがありますし、LSEを除いてはMBAがあります。LSEはMSc Finance and Private Equityというプログラムがありますので、それを狙ってもいいかもしれません。正直、ただ投資銀行部門に入りたいというだけであれば、LSEのEconやFinあたりでいいかと思います。もしくはMSc Managementあたりでしょうか。 望ましいバックグラウンド
PEとなると、正直競争だけでなく、学位も職歴も重要になってきます。バックグラウンドとしての職歴はIBD -> Consultancy -> Big4, Law -> 商社の順に有利?です。
学位は上記のものでいいとして、職歴に関しては、投資銀行が一番多く、次にコンサルで、日本ですとマッキンゼー、BCG、ベインあたりは最低限行っておきたいかなと思いますが、LEKやOliver Wymanなど、PE案件が経験できるところもアリかもしれません。デロイトあたりは良い案件を持っており、また、採用数が多いことからも、穴場と言えるかもしれません。日本ですと、戦略コンサルの方が採用人数も多く入るのが比較的楽だと思います(受けている側はどの会社を受けるのにも必死だと思いますが)。
現実的な選択
現実的にいえば、IBDは採用数がかなり少なく、一社あたり数人取ればいい方なので、大半の人は不可能に近いように感じます。コンサルはマッキンゼーで20人以上、BCGも30人近く取るように思いますので(BCGは不確かですが)、比較的窓口は広いと言えるかもしれません。その他でいえば、意外に思われるかもしれませんが、Big4の監査法人にいる人も一定数需要があります。意外と会計の知識のない人が少なくなく、この専門性は使えますし、IBDやコンサルほどアグレッシブな人は少ないように思いますので、比較的PEに行きやすいように感じます。他にはM&A弁護士ですね。一定数います。商社は事業投資のみで、ちょっと配属リスクが大きいように感じますし、関われるようになるまで時間がかかることからあまりお勧めとはいえません。また、ロンドンやドバイあたりでそれが通用するのかも不確かですので、できるだけグローバルファームで経験を積むことをお勧めします。
とはいえ、このキャリアの中でトップ5−10には入らなければならないため、これらのキャリアは”単なる始まり”にすぎません。目の前のことに一生懸命になるだけでなく、将来のことを考えながら職務に従事することに注力するのが良いと思います。
日本人の皆様が理想的なキャリアを積むことを願っています。また、知識や経験知の足りない部分はご容赦くださるようお願いいたします。
それでは。また。
by lse_keio_sfc
| 2017-01-15 15:29
| 修士
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